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演題:Advancing Healthcare Through Cutting-Edge Technology(最先端技術による医療の発展)
演者:井川智之氏
中外製薬株式会社 研究本部長
中外製薬株式会社 研究本部長である井川智之氏は、「最先端技術による医療の発展」と題した講演を行った。井川氏は、中外製薬が独自の技術とサイエンスを強みとする研究開発型の製薬企業であり、ロシュ・グループの一員であることを紹介した。ロシュ社が同社の株式の過半数を保有しているものの、中外製薬は東京証券取引所への上場を維持し、自主独立経営を行っている。井川氏は、革新的な新薬を創出し、世界の患者さんに届けることを中外製薬の使命とし、社名の「中外」が「内と外」を意味することにその理念が反映されていると述べた。

中外製薬が創業100周年を迎えるにあたり、井川氏はロシュ社とのアライアンス以降の著しい成長を強調した。この期間に売上は7倍以上、営業利益は21倍に増加しており、その成長の原動力となったのは、同社独自の創薬によるグローバル展開である。特に、同社が開発した抗IL-6受容体抗体は、新型コロナウイルス感染症による重症肺炎の治療薬にも使用され、多くの適用症で世界110カ国以上の承認を取得している。井川氏は、中外製薬の創薬戦略が他の製薬企業とは異なり、特定の疾患領域に特化するのではなく、幅広い疾患に応用可能な独自技術の開発に重点を置いている点を指摘した。

この「疾患領域に依存しない創薬(disease area agnostic drug discovery)」のアプローチにより、中外製薬は未解決の医療ニーズに応える革新的な医薬品を生み出している。井川氏は、二重特異性抗体やリサイクリング抗体®などの技術革新を紹介し、これにより標的分子の範囲や作用機序が拡大したことを説明した。例えば、第VIII因子の機能を模倣する二重特異性抗体である血友病A治療薬は、世界で26,000人の患者さんに投与されている。
さらに、中外製薬が開発を進める「中分子医薬」についても言及した。これは、低分子医薬と抗体医薬の中間に位置し、従来は標的とすることが困難だった細胞内タンパク質を狙うことが可能となる。中分子医薬に至る技術革新の過程の中でGLP-1受容体作動薬の創製が成し遂げられ、成功したライセンス契約が生まれている。
中外製薬は、品質を重視した創薬を推進しており、その結果、臨床開発における成功率が非常に高い。特に、第III相試験の成功率は100%を達成しており、井川氏は、スピードを犠牲にすることなく高品質な医薬品候補を開発する同社の姿勢がこの成果につながっていると述べた。
講演の締めくくりとして、井川氏は、中外製薬がオープンイノベーションを重視し、学術機関やスタートアップ企業、その他のパートナーとの協力を通じて、新たな標的や技術を活用しながらモダリティ技術を加速させることを目指していると強調した。この協力的なアプローチにより、未解決の医療ニーズに対応し、革新的な医薬品を世界に届けることを目標としている。さらに、米国ボストンエリアに設立した「Chugai Venture Fund」を紹介し、新規標的や技術への投資を通じて、イノベーション創発を加速させていくと述べた。
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